ぶどうの音色、ワインの調べ 第2話

2019 年 01 月 07 日ライター:Yasuyuki Ukita

第2話 混ぜるボルドー、混ぜないブルゴーニュ(前半)

ワイン好きを二分する銘醸地といえば、ボルドーとブルゴーニュであることに異を唱える人は少ないでしょう。ボルドーは「ワインの女王」、ブルゴーニュは「ワインの王」と称されます。王様と女王様には使用されるぶどう品種を始め、顕著な違いがいくつかありますが、複数品種によるアッサンブラージュの有無も両者の違いを特徴付ける大きな違いと言えるでしょう。

傷んだぶどうや不要なものを取り除く選果作業。

ボルドーではほとんどすべてのワインが2種類以上の異なる品種から造られています。一方、ブルゴーニュでは、赤も白もモノセパージュ、つまり単一品種で造られます(例外として、ブルゴーニュにはガメイとピノ・ノワールを混ぜて造るパス・トゥ・グランというワインがある)。なぜボルドーでは多品種を混ぜるのか? また、なぜブルゴーニュでは混ぜないのか?

シャトー訪問者用に並べて置かれた2種類のぶどう。

まず、ボルドーの方ですが、資料を当たると、これには定説があるようです。ボルドーのワイン造りの歴史はローマ時代に遡りますが、今日私たちが口にするようなスタイルのワインが生産されるようになったのは17世紀以降のこと。この時代、ボルドーワインは大航海時代の覇権を握る者の貴重な商材となっていました。また、大西洋に近い河岸の港町ボルドーには水運や貿易で財を成した人々が集い、巨万の富を蓄えていきます。

ボルドー市内、ブルス広場前のアトラクション「水の鏡」。

豪商出身の貴族たちの一部は都会の喧騒を嫌って郊外に引っ越し、瀟洒なシャトーを建て、そこに暮らすようになります。シャトーの周りにはワインを造るためのぶどう畑が開かれました。こうして生まれたワインは元々自家消費用でしたが、場所が貴族の館であっただけに、ワインは賓客をもてなし、主人の趣味嗜好の良さを示す重要なものとなりました。こうしたワイン(シャトー・ワイン)は、それまでワイン商が商ってきた質より量のワインとは全く別種のものでした。程なくシャトー・ワインは独自の市場を持つようになります。良いワインを造れば評判になって値が上がります。シャトーの主人たちは秀逸なワインを造るための投資を厭いませんでした。

シャトー・マルゴーの邸館。

しかし、海に近く、海洋性気候の影響下にあるボルドーは天候不良に見舞われることが多く、長雨によるぶどうの結実不良やカビ系の病害など、リスクの高い土地でもありました。そこで、年毎のワインの生産量と品質を少しでも平均化する秘策として編み出されたのが、開花期や果実の成熟期の異なる複数のぶどう品種を栽培して、リスクを減らすという方法でした。赤ワインを例に取ると、ボルドーの主要品種はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローですが、前者は開花も収穫期も遅い晩熟タイプ、後者はその逆の早熟タイプです。たとえ、片方が悪天候によるダメージを受けても、もう一方を多めに使うことで、そこそこの量のワインを造ることができるというわけです。

収穫前のぶどう。夏場の雹害の影響で少し傷んでいる。

メルローの収穫。

それぞれの品種の持ち味については回を改めて詳しくお話ししますが、前出の2品種は、その特徴が大きく異なります。カシスや杉の風味と直線的な酒躯(ボディ)を持ち、熟成を経て本領を発揮するカベルネ・ソーヴィニヨンに対して、プラムや花のアロマを持ち、豊満で、比較的若いうちから飲み頃になるメルロー。異なる2つの個性を混ぜ合わせることは、ワインに足し算以上の効果を生みました。端的に言えば、混ぜ合わせることで、ワインの奥行きと複雑味がグンと増したのです。ボルドーではこの2品種に加え、カベルネ・フラン、マルベック、プティ・ヴェルドといった品種が栽培され、アッサンブラージュに彩りを与えています。リスクマネージメントから生まれた方法がワインの品質を大きく高めたのですから、これこそもっけの幸いというもの。レベルの高い競争の中で、ボルドーのアッサンブラージュ技術はどんどん磨かれていきます。

収穫されたぶどうは大抵区画ごとに醸造され、
育成を経てアッサンブラージュされる。

 

発酵途中のワインをチェックするシャトー・オーナー。

次回は、もう一つの疑問、「なぜ、ブルゴーニュでは混ぜないのか?」についてお話しします。

Text & Photographs by Yasuyuki Ukita

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは500軒を超える。