ぶどうの音色、ワインの調べ 第5話

2019 年 04 月 25 日ライター:Yasuyuki Ukita

第5話 ウィーンとドウロ──混植混醸の伝統があるところ

オーストリアのウィーンとポルトガルのドウロ地方には複数の品種を同じ畑に植え、同時に収穫して醸造を行う混植混醸(フィールド・ブレンド)の伝統があります。言わば、畑の中でのアッサンブラージュですね。ウィーンのそれは「ゲミシュター・サッツ」という、特別の呼び名を持ち、オーストリアのワイン法で、その製法がきちんと規定されています。

「ツァーヘル」という造り手のゲミシュター・サッツの収穫。薄紫色のぶどうはトラミナーという品種。※写真提供:(株)エイ・ダブリュー・エイ

 

オーストリアのワイン法であるDACの規定によると、ゲミシュター・サッツは少なくとも3つの白品種が一つの畑に植えられていなくてはなりません(ゲミシュター・サッツは白ワイン)。また使用比率についても、最も高い品種でも50%を超えてはならず、3番目の品種でも10%以上は使わなければならないと定められています。代表的な品種名をいくつか挙げておきましょう。グリューナー・ヴェルトリーナー、ヴァイスブルグンダー、リースリング、ノイブルガー。

ぶどうは品種によって早熟・晩熟があり、当然収穫のタイミングも異なるのですが、ゲミシュター・サッツは、あえて多品種を同時に収穫することによって、ぶどうの個性ではなく、テロワールの個性を表現しようとしているのだと言われています。造り手たちは、土壌や地勢など畑の特徴に合わせて品種構成を変えることで、自分たちのアイデンティティーを打ちだそうとします。

「ヴィーニンガー」の「ウィーナー・ゲミシュター・サッツ2016」。11のぶどう品種から造られる。

 

「ヴィーニンガー」というワイナリーの当主フィリップ・ヴィーニンガー氏は、一時大量消費用の二級酒に成り果てていたウィーンのワインを立て直し、かつての栄光を取り戻した中興の祖として知られています。この人の造るゲミシュター・サッツは、厳格なミネラル感に富み、複雑精妙な味わいで、まさに“テロワール・ワイン”の代表と呼ぶべきものです。

ゲミシュター・サッツの品種数は10を超えることもあります。一方、ドウロでは、なんと30種類を超える品種をブレンドして造られる赤ワインがあります。

ドウロ川と岸辺の傾斜地に広がるぶどう畑。

 

ドウロ地方はポルトガルの北部を東西に流れるドウロ川に沿って開けた産地で、河口付近にはポルトガル第2の都市ポルトがあります。ポルトの対岸ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイヤにあって観光名所にもなっているのがポートワインの貯蔵庫群。古くからドウロ渓谷は「世界三大酒精強化ワイン」(*1)の一つと言われるポートワインの産地として栄えたのです。このポートワインの原料となる多様な品種をそのまま引き継いだのがドウロの辛口ワイン(いわゆる赤ワイン、白ワインのこと)でした。人々の嗜好の変化に伴い、ポートワインの消費は減って、辛口ワインが成長していきます。2005年にはついにこの地方の辛口ワインの生産量がポートワインのそれを上回りました。今では、ワイン評価誌のランキングでドウロのワインの多くがフランスやイタリアの銘酒を抑えて、上位を占めるほどの高評価を得ています。

「キンタ・ド・クラスト」からの眺望。

「キンタ・ヴァレ・D.マリア」のフランシェスカ・ヴァン・セラーさんが手にするボトルの中身は実に41もの品種から造られている。

 

そんなドウロ渓谷のワイン革命を80年代からリードしてきた造り手集団“ドウロ・ボーイズ”の一つ「キンタ・ド・クラスト」を訪ね、「レセルバ オールド・ヴァイン2012」を飲む機会が数年前にありました。39区画のフィールド・ブレンド(混植)の古木に実るぶどうによって造られる秀逸なワインです。ドウロ川を見下ろす絶景のテラスで試飲させてもらった際、このワインに使われている品種の数を訪ねましたが、対応してくれたスタッフの答えは「30〜40種類のはず」とアバウトなものでした。事前に手渡されていたテクニカルシートを見ると、「25〜30種の品種」との記載が。ワイナリー側がいい加減なのでしょうか? そうではないと思います。古い畑になると、もはやどの品種がどのような割合で植えられているか、正確にはわからないのです。そこに正確さを求めるのはナンセンスだということではないでしょうか? 彼らが重きを置いているのは、品種の数ではなく、畑そのものなのですから。このワインに使われている品種をいくつか挙げておきましょう。トウリガ・ナシオナル、ティンタ・ロリス、ソウザォン。

真ん中が「キンタ・ド・クラスト レセルバ オールド・ヴァイン2012」。

 

「キンタ・ド・クラスト レセルバ オールド・ヴァイン2012」は、深いルビー色を湛え、野花や熟れた野生のベリー、甘苦いスパイスを含む複雑な香りと滑らかな口当たりを持つ、余韻の長いワインでした。

「キンタ・ド・ヴァレ・ミアオン2011」。このワインの同ヴィンテージが2014年、米ワイン評価誌の「世界TOP100ランキング」で4位となり、ドウロのワインの実力を証明した。

 

なぜウィーンやドウロに混植混醸の伝統が根付いたのか? その答えは以前このコラムでお話ししたボルドーのケースと符合するようです。すなわち、タイプの異なる多くの品種を混ぜて植えることで、天候不良による不作の際のリスクを軽減しようとしたというわけです。

*1 世界三大酒精強化ワイン:スペイン・アンダルシア地方のシェリー、大西洋に浮かぶマデイラ島のマデイラ、そしてポートワインの3つを指す。酒精強化とは、発酵の途中にアルコールを添加して、発酵を止めることで、アルコール度数の高い、甘みの強いワインにする手法。

Photographs by Taisuke Yoshida

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。