ぶどうの音色、ワインの調べ 第17話

2020 年 07 月 16 日ライター:Yasuyuki Ukita

第17話 メルロー、永遠のノーマ・ジーン③

南仏ラングドック、リムーのぶどう畑。

世界各地に拡散したメルローについて見ていきましょう。フランス国内では、メルローはカルニャン、グルナッシュに次いで3番目に多く栽培されています。これはボルドー、ベルジュラック(ボルドーの東に広がる産地)、ラングドック=ルーションなどで1980年代に、主に白ぶどうからメルローに改植する動きがあった結果です。フランスに限らず、当時は世界中で土地固有の在来品種からいわゆる「国際品種」に植え替える動きが一気に広まりました。そんな国際品種の代表格がメルローでした。

収穫を待つメルロー。

ドメーヌ・ド・バロナーク2003年。メルローを含む6品種のブレンド。

イタリアでは、90年には全20州のうち14の州でメルローが栽培され、その栽培面積は約30000haであったというデータがあります。主な栽培地はイタリア北東部、州名で言えば、フリウリ=ヴェネチア・ジュリア、ヴェネト、トレンティーノ=アルト・アディジェなどです。バラエタルワイン(単一品種、もしくは特定の主要品種で造り、ラベルに品種名を表示)として商品化される際はフランス語の「Merlot」ではなくイタリア語の「Merlott」で表記されることもあります。

北イタリア・コッリオ、パスコーロのアレッサンドロ・パスコーロ氏。

年にマグナムボトルで300本のみ造られているパスコーロのメルロー セレツィオーネ2011。
ひたすら穏やかで、飲む者を包み込んでくれるようなワイン。

中部イタリアのトスカーナでもメルローは存在感を示しています。キャンティの名手、カステッロ・ディ・アーマがメルロー100%で造る「ラッパリータ」は、ペトリュスに匹敵するとの評価を受けるイタリアン・メルローの白眉です。

冷涼な土地でカベルネ・ソーヴィニヨンよりも容易に成熟させることができるメルローは、スロベニア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなど、ヨーロッパの中でも比較的冷涼な国々やロシアでも栽培されています。

カベルネ・ソーヴィニヨンにどっぷり首まで浸かっていたカリフォルニアがメルローに目覚めたのは80年代の終盤からのことでした。カベルネよりも味わいがソフトでマイルドであること、熟成を経なくても若いうちから楽しめることが当時のトレンドに合致したのです。85年に800haだったメルローの栽培面積は94年には7300haと約9倍に拡大しています。同じアメリカ西海岸では日照量の多いワシントン州東部のコロンビアヴァレーが好適地で、いくつかの名品が生産されています。一方、東海岸ではニューヨークのロングアイランドのメルローが知られています。2013年1月、オバマ大統領(当時)が2期目の就任を決めた時、昼食会に出されたのはロングアイランド、ベデル・セラーズのメルローでした。

ベデル・セラーズのメルロー2013。松葉、シダー、ワイルドベリーの香りがあり、
森の中を歩いているような気分にしてくれるワイン。

南半球へと目を転じると、南米ではチリ、アルゼンチンでメルローが栽培されています。オセアニアではオーストラリア、ニュージーランドで。カベルネ・ソーヴィニヨンのところで紹介した西オーストラリア州マーガレット・リバーのモス・ウッドはメルローでも名品を生み出しています。また、「孤高のボルドースタイル」として知られるニュージーランド北島、マタカナのプロヴィダンス「プロヴィダンス・プライベート・リザーヴ」は40%程度がメルローです。

チリ・コルチャグアヴァレー、ラポストールのクロ・アパルタ2005。
カルメネール主体だが、メルローの優美さがよく出ている。

ラポストールのワイナリー。

マーガレット・リバー、モス・ウッドのリッボン・ヴェイル メルロー2014。
深みのある香りは他の追随を許さない。

メルローの名産地として挙げておきたいのが日本です。メルシャンの「桔梗ケ原メルロー1985」がリュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を受賞したのは89年のこと。それは日本が国際市場で勝負することのできるワイン生産国であることを初めて世界にアピールすることができた歴史的快挙でした。それまで主流だったアメリカ系品種からヨーロッパ品種への転換を推進したのが当時、メルシャンの工場長だった故浅井省五氏でした。ペンネームの麻井宇介で知られ、「現代日本ワインの父」と言われる人物です。

浅井氏の薫陶を受けた「ウスケボーイズ」の一人で山梨・北杜市でワイン造りをする岡本英史氏のボー・ペイサージュは入手困難で知られるカルト・ワインです。「ボー・ペイサージュ ツガネ ラ・モンターニュ」はメルロー100%。岩の間を流れる渓流を彷彿とさせる実に瑞々しいワインです。

マンズワインの「ソラリス」にはメルロー単一の銘柄が畑違いで3つあります。「ソラリス信州 千曲川メルロー」は、均整の取れた流麗な酒躯を持ち、香りに奥行きがあって、飲み手にものを思わせる瞑想的なワインです。

試みに、世界の5つの産地から1銘柄ずつのメルローを選び、比較テスティングを行ってみました。その詳細は、また次回、お話しすることにしましょう。

(つづく)

Photographs by Taisuke Yoshida, Yasuyuki Ukita

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。


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