ぶどうの音色、ワインの調べ 第18話

2020 年 08 月 09 日ライター:Yasuyuki Ukita

第18話 メルロー、永遠のノーマ・ジーン④

完熟したメルロー。

世界の5つの産地から1銘柄ずつのメルローを選び、比較テイスティングを行ってみました。飲み仲間との遊びですが、真剣です。この日の参加者(テイスター)は僕を含めて7人。日本でトップクラスのワインアドバイザー、ワイン雑誌の編集者、ソムリエ資格を持つシェフなど、なかなかのエキスパート揃いです。公平を期すべく、ワインの価格は5000円台を上限にして僕が選びました。

テイスティングはブラインドで行いました。僕から参加者に告げたのは、5つの産地名のみ。僕自身もどのワインが何番目に出てくるのかは分からないようにしました。まずはみんなでどのワインがどの産地で造られたかを当て合い、その後でそれぞれの好み、ワインの味わいや造りの特徴について意見を述べ合うことにしました。

この日、僕が用意したワインは、

①クロアット メルロー・オベリスコ2015(イタリア/フリウリ=ヴェネチア・ジュリア州)
②プピーユ2014(フランス/ボルドー)
③ベデル・セラーズ メルロー ノース・フォーク・オブ・ロングアイランド2016(アメリカ/ニューヨーク州)
④レコールNo.41 メルロー2015(アメリカ/ワシントン州)
⑤ソラリス 信州 千曲川産メルロー2015(日本/長野)

この5本をブラインド・テイスティングした。

簡単に、説明を付しておくと、①はカルト・ワインとして知られるミアーニを生み出したエンツォ・ポントーニ氏が手がけるワイン、②はペトリュスと張り合ったことで知られるボルドー右岸、カスティヨン・コート・ド・ボルドー地区の逸品、③は前回のコラムでも紹介したオバマ大統領2期目の祝賀ランチで出されたワイン、④はメルローの適地とされるコロンビア・ヴァレーの代表的な造り手によるもの、⑤は前回のコラムでも紹介したマンズワインのプレミアム銘柄。

レコールNo.41のワインメーカー、マーティン・クラブ氏。

レコールNo.41のセラードア。

プピーユ1989。この年は現オーナーのフィリップ・カリーユ氏が稼業に参画した記念すべきヴィンテージ。
筆者は去年秋にボルドー市内のレストランでたまたまカリーユ氏と会い、ご相伴にあずかった。

さて、産地当ては思わぬ結果になりました。最高得点は2点。つまり、2銘柄の産地を当てたのみでした。僕自身は出したワインの全てについて知っているつもりでしたが、それでも3つを間違えるという不名誉な結果に終わってしまいました。

発酵中のワインを攪拌するポンプオーバーの作業。ボルドーにて。

参加者が最も迷ったのは、ロングアイランド(ニューヨーク州)、北イタリア、長野の3つだったようです。僕も同様の「罠」に嵌ってしまいました。①の冷たく湿った感じがロングアイランドの特徴だと信じました(正解は北イタリア)。③の木の芽など和のハーブを思わせるトーンがいかにも日本ワインらしいと判断(正解はロングアイランド)。⑤のリキュール感を伴ったバランスの良さはイタリア人の技だと思ったら、まさか日本ワインだったとは!(正解は長野)

ソラリス 信州 千曲川産メルロー2015。

逆に、僕を含め、複数の参加者が正解を出したのが②と④でした。②のプラムやオリエンタル・スパイスのトーンはいかにもボルドーらしかったし、④の色合いの濃さ、ミンティなトーン、樽由来のバニラやバタースカッチの風味はいかにもアメリカ西海岸的でした(当てたから言えるのですが‥‥)。。

品質評価でみんなが異口同音に高評したのは⑤のソラリスでした。厳しい選果を想像させる綺麗な酒質、適度な抽出、素晴らしバランス。こういうワインに出会うと、日本には世界の銘醸地に引けを取らないメルローの栽培適地がある、と大きな声で宣言したくなります。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki, Hiromichi Kataoka

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。

メルローを使ってアッサンブラージュ