ぶどうの音色、ワインの調べ 第23話

2020 年 12 月 01 日ライター:Yasuyuki Ukita

第23話 赤と黒、2つの貌を持つMr.アンビシャス④

左から、イタリア、アメリカ、フランスのシラー。

メルローの時と同じように、世界のワイン産地からシラー&シラーズの逸品を集めて、比較テイスティングを行いました。今回の参加者(テイスター)は僕と含めて10人。顔ぶれは、ワインアドバイザー、ワイン輸入業者、雑誌編集者、ベテランのワイン愛好家など。

用意したワインは7銘柄。価格は3000円台から12000円まで、大きな幅がありました(以前メルローの会を行った際は価格帯を揃えたが、今回はあえて価格帯は度外視した)。

左から、チリ、オーストラリア、日本、南アのシラー&シラーズ。

今回もテイスティングはブラインドで行いました。僕から参加者に告げたのは、7つのワインの産地名と生産者の簡単な説明のみ。もちろん僕自身もどのワインが何番目に出てくるのかは分からないようにしました。

ワインのラインナップは以下の通りです。

①M. シャプティエ エルミタージュ・ルージュ モニエ・ド・ラ・シズランヌ2012(フランス/コート・デュ・ローヌ)

②イル・カッルーボ2015(イタリア/シチリア)

③ラジエ・メレディス マウント・ヴィーダー シラー2014(アメリカ/ナパ近郊)

④都農ワイン プライベートリザーブ シラー2017(日本/宮崎)

⑤マリヌー シラー2014(南アフリカ/スワートランド)

⑥モンテス フォリー2013(チリ/アパルタヴァレー)

⑦ショウ&スミス シラーズ2016(オーストラリア/アデレードヒルズ)

簡単に各ワインの説明を付しておくと、

①は、ローヌを代表する生産者で有機栽培のリーダー格としても知られるM. シェプティエの代表銘柄。黒いベリーや
 オレンジピールの溶け込んだ精妙な香り。熟成を経てなめらかさと旨味を増している。

M. シャプティエの新しい醸造施設。(写真提供:日本リカー)

当主のミシェル・シャプティエ氏。(写真提供:日本リカー)

②は、ボルドーや南アで醸造家として活躍した名伯楽、ピーター・ヴィンディング氏が、シチリアのテロワールに新たな
 可能性を見出して挑戦している温暖地のシラー。シチリアの風土を写し、大人のエロティズムとも言うべき、退廃的な
 魅力を備える。

ピーター・ヴィンディング氏はスペインのカルトワイン「ピングス」の造り手、ピーター・シセック氏の伯父。

ヴィンディングのブドウ畑。シチリア南部の炎暑の地だが、海に近く海風が気温を調節してくれる。

③は、このコラムの「間接的な協力者」とも言えるぶどう品種の遺伝子研究の第一人者、キャロル・メレディス博士が夫の
 スティーヴン・ラディエ氏と2人だけで手がけるカルトワイン。バルサミックな香りが穏やかに、上品に香る。

④は、設立して四半世紀を超えた宮崎のワイナリーがフランスのシラーでもオーストラリアのシラーズでもないスタイルを
 目指して造った意欲作。

⑤は、テロワール・ワイン生産者として高評される南アの造り手によるエレガントなシラー。淡い赤い果実の香りにハーブ
 のトーンが交じる。

「マリヌー」のアンドレア・マリヌーさん。

⑥は、チリの名門が急傾斜地に北ローヌとの共通性を見出して挑んだプレミアム・シラー。「フォリー(愚か者)」の
 名は、当時非常識と言われた高標高の急傾斜地に畑を開いたことを周囲が揶揄して言った言葉を逆手に取って付けた。
 黒系果実とハーブの香りが力強く立ち、そこに醤油を連想させるようなスパイシーなトーンが重なる。

モンテスのブドウ畑。

モンテスの熟成庫。定時にクラシック音楽が流される。

⑦は、オーストラリア最初のマスター・オブ・ワインの資格を得たマイケル・ヒル・スミス氏が従弟の
 マーティン・ショウ氏と冷涼産地で造る、世界のトレンドをきっちりと押さえ、体現したワイン。

さて、お楽しみの産地当ては1人を除いて全員散々な結果に終わりました。「1人」はオーストラリアやニュージーランドのワインの輸入を手がけるB氏で、7本中5本を的中させ、メンバーから喝采を浴びました。自信満々で臨んだ僕自身(正解2本)を含め、他の参加者は正解0〜2本のみという惨憺たる結果に沈みました。

しかし、負け惜しみを言うようですが、それほどに産地の判別は容易ではなかったのです。僕自身の結果で言えば、正解したのは④と⑥でした。⑥の濃さはいかにもチリワインのそれでした。逆に④は淡く、はかなく、いかにも日本的でした。①と②はいずれも熟成感が共通していました(僕は2つを逆だと判断)。しかし、残りの③⑤⑦は誰にとっても難敵でした。勝者B氏が不正解だったのは②と③(正解はその2つが逆)。つまり③がアメリカ・カリフォルニアのワインだとは誰も思わなかったということです。

僕がこのゲームを通して確かめたかったのは、エキスパートを自認する人たちのテイスティング能力‥‥ではありません。シラーという品種が産地によってどれくらいわかりやすく個性を違えるのかということです。しかし、結果としては、産地による差は明確ではないということになりました。僕が選んだワインの多くが、冷涼地のものであったことも関係していると思います。これまで述べてきた「赤」か「黒」かの別で言うと、⑥のチリ産だけが「黒」、残りは全て「赤」の方のシラーだったと思います。できるだけ進歩的な造り手のワインを選んだつもりです。つまり、世界のシラーの多くは「赤」の方向性で進化を続けていて、それぞれの個性は国や地域ではなく、産地の標高や気候、土壌、ワインメーカーの造りが左右しているということでしょうか。

産地当ての後は、みんなで自由にワインを飲みながら、ワインの特徴や好みについて語り合いました。この夜、参加者の多くに高く評価されたのは⑦の「シラーズ」でした。ジューシーで赤い果実やハーブの香りとリキュール感があり、時間と共に奥行きが増していくような印象。このワインが今回の7本の中で2番目に安いワインだったことも書き添えておきたいと思います。

(つづく)

Photographs by Hiromichi Kataoka, Yasuyuki Ukita

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。


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