ぶどうの音色、ワインの調べ 第24話

2020 年 12 月 22 日ライター:Yasuyuki Ukita

第24話 エミリア=ロマーニャの“逆転人生”❶

エミリア=ロマーニャ・ワインの生産者イベント「エノロジカ」で試飲をする来場者。

ここまで何回かにわたって代表的なブドウ品種を一つひとつ深掘りして来ましたが、今回からしばらくは趣向を変えて、皆さんと一緒に旅に出ようと思います。もちろんワイン産地への旅です。旅をしながら、このコラムのメインテーマである「ブドウ品種とブレンド(アッサンブラージュ)」について、さらに理解を深めて行けたらと思います。

今回の旅のディスティネーションはイタリア北部、エミリア=ロマーニャです。イタリア最長の川、ポー川が形作ったポー平原(パダナ平原)からアペニン山脈へと至るこの一帯はローマ時代から「食の宝庫」と称されてきました。パルマの生ハムやチーズ、モデナのバルサミコ酢、ボローニャの名のついたミートソース(ボロネーゼ)、いずれも今日のイタリア料理に欠かすことのできないものです。

“美食の街”ボローニャの街並み。

サラミ屋の店先で。

トルテリーニはボローニャ発祥のパスタ。

しかしワインとなると、この地方は、トスカーナやピエモンテほどの名声はなく、どちらかというと「ワイン不毛の地」「安ワインの里」という汚名を着せられてきた感があります。その理由として思い当たるのは、土地が肥えすぎていたこと、気候が比較的温暖で湿潤であることです。良質なブドウを得るために必要なのは痩せた土地と寒暖差のある気候です。病害のリスクを考えると、湿潤であるよりは乾燥している方が望ましいといえます。

タリアテッレ・ボロネーゼ。

生ハムとサラミの盛り合わせ。

「シモーニ」はシャルキュトリーの名店。

しかし、ここ20年ほどの間に世界中で巻き起こった「ワイン革命」は、エミリア=ロマーニャにも意識改革とイノベーションをもたらしました。最近では世界を唸らせるクオリティ・ワインがたくさん登場しています。

「エミリア=ロマーニャ」と行政上は一括りにされていますが、西側4分の3を占めるエミリア地方と東側4分の1ほどのロマーニャ地方とでは、気候風土も人々の気質も、そしてワインも大きく異なっています。この地方にしかない在来品種や栽培・醸造スタイルもあり、旅して飽きるということがありません。

前置きはこのくらいにして、生産者を訪ねましょう。ロマーニャ地方、陶器の町として知られるファエンツァの南、マルツェーノの谷にある〈ファットリア・ゼルビーナ〉は、この産地のワインの汚名返上に大きな役割を果たしてきた女性醸造家、クリスティーナ・ジェミニアーニさんが切り盛りするワイナリーです。

収穫作業中のクリスティーナさん。

1987年に創業者だった祖父の跡を継いだクリスティーナさんは、自らの土地とワイン造りを見直し、「改革」に着手します。彼女が拠り所にしたのは、ミラノとボルドーの大学で学んだ栽培と醸造に関する広い知識でした。

クリスティーナさんの改革の幹をなすのは土地固有の品種──黒ブドウではサンジョヴェーゼ、白ブドウではアルバーナ──にきちんと向き合うことでした。

ブドウ畑は標高90m〜200mの間に広がる。高標高の畑には黒ぶどうが植えられている。

サンジョヴェーゼは、トスカーナの主要品種として知られ、多くの偉大なワインを生み出している品種です。ローマ神話の主神、ジュピター(ジョヴィ)の血(サングイ)からその名が付けられていることからも、いかにこの国で重要な品種であるかが想像できるでしょう。ロマーニャ地方でも古くからこの品種によるワイン、サンジョヴェーゼ・ディ・ロマーニャが造られていましたが、トスカーナの“スター”たちと比べると、風味に乏しく、評価も価格も「2軍」の域を出ませんでした。

クリスティーナさんはクローンの選別に取り組みました。サンジョヴェーゼは突然変異を起こしやすいという特徴を持ち、80種類を超えるクローンがあると言われています。この中から、クリスティーナさんは小粒の実を付け、果皮の厚くなるものを選びました。さらに樹間を狭くして密植にして栽培(競争が起こり、ブドウの根が地中深くに伸びる)。逆に収量はうんと減らして、濃縮感のある果実を得ました。現在は、伝統的な株仕立て(ワイン用のブドウ栽培で現在一般的なのは垣根仕立て)にも挑戦しています。

縦置きにし、蓋を外したオーク樽で発酵中のサンジョヴェーゼ。


こうして造られたのがサンジョヴェーゼ100%の赤ワイン、「ピエトラモーラ」です。2001年物を試飲させてもらいました。グラスに鼻を近づけた途端に思わず微笑んでしまうような、ドライフルーツの甘く熟した香り。そこにハーブ、杉の葉、さらにはアーシーなトーンが交じります。口に含むと、意外なほど逞しさがあり、包み込まれるような感じがしました。

「ピエトラモーラ2001」。夏場が暖かく、良作年だったとクリスティーナさんは言う。

クリスティーナさんが白ブドウ、アルバーナで行った「もう一つの改革」については次回、お話しします。

(つづく)

Photographs by Taisuke Yoshida

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。


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