ぶどうの音色、ワインの調べ 第27話

2021 年 02 月 17 日ライター:Yasuyuki Ukita

第27話 イタリア、エミリア=ロマーニャの“逆転人生”❹

エミリア地方にグットゥルニオという伝統的な赤ワインがあります。バルベーラとクロアチーナというふたつの品種をブレンドして造られるこのワインは、品種とブレンドについての理解を深めさせてくれる格好の「教材」です。今回はこのグットゥルニオの生産者を訪ねてみましょう。

左の赤い建物が〈カステッロ・ディ・ルッツァーノ〉。

〈カステッロ・ディ・ルッツァーノ〉は、エミリア=ロマーニャとロンバルディアの州境の、標高270メートルの丘陵に立っています。“カステッロ”というくらいですから立派な城館があります。その設計をしたポルタリッピは、なんとレオナルド・ダ・ヴィンチの邸宅を設計した人物。少し離れたところに立つヴィラ(現在はアグリツーリズモ=農園滞在の宿となっている)は、パルマ女公マリア・ルイーザ(ナポレオン1世の皇女)の別荘だったもの。このエステートでは1000年前からブドウ栽培が行われていたという記録が残っているとのこと。

カンティーナ(ワイナリー)の傍に立つヴィラ。

この由緒あるワイナリーのオーナーはジョヴァネッラ・フガッツァさん。フガッツァ家は1747年まで歴史を遡ることのできる名家です。ジョヴァネッラさんは40年ほど前に父親のブドウ畑とワイン事業を引継ぎ、ワインの元詰めを始めました。農薬は使わず、環境を尊重した自然なワイン造りを行っています。

ジョヴァネッラさん。

なだらかな傾斜が続くぶどう畑。

カンティーナへと至るアプローチ。

同社のグットゥルニオ、「ヴェナ・ロッサ」を試飲してみましょう。スミレの花とチェリーリキュールの香りがあり、口に含むと、噛めるようなテクスチャがあります。「滋味」という言葉がふさわしいワイン。

「ヴェナ・ロッサ」。

実はこのワイナリーにはジョヴァネッラさんの右腕として働く日本人スタッフがいます。彼女の名前は槇島あつ子さん。マレーシアのクアラルンプールでレストラン経営をしていたあつ子さんが、ワインの仕事に飛び込むきっかけになったのが他でもない「ヴェナ・ロッサ」でした。

槇島あつ子さん。

「マレーシアに移る前の東京時代からワインが好きでよく飲んでいましたが、ある時期からグラス1杯飲むだけで気分が悪くなるようになりました。ワインに含まれる農薬や酸化防止剤に対して身体が拒絶反応したのだと思います」とあつ子さんは振り返ります。「2011年2月にヴェネチアのカーニバルを見物するためイタリアに行きました。この旅行のもう一つの目的は、私の体が受け付けるワインを見つけることでした。そのとき、たまたま滞在していたホテルでカステッロ・ディ・ルッツァーノを紹介する記事と出会ったのです」

あつ子さんはミラノでレンタカーを借りてカステッロ・ディ・ルッツァーノを訪ねます。城館の一室で「ヴェナ・ロッサ」を試飲した瞬間に「このワインなら大丈夫」と体が告げたのだそうです。その後、ジョヴァネッラさんと意気投合したあつ子さんは、1年の半分をこのワイナリーでスタッフとして過ごすようになりました。

(つづく)

Photographs by Taisuke Yoshida

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。


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