ぶどうの音色、ワインの調べ 第3話

2019 年 03 月 01 日ライター:Yasuyuki Ukita

第3話 混ぜるボルドー、混ぜないブルゴーニュ(後編)

「20万ユーロの値をつけていただけたら、私が歌を歌うわ。どなたか?」

元フランス大統領ニコラ・サルコジ氏の妻でシンガーのカーラ・ブルーニさんが壇上でそう言うと、オークション会場は大きくどよめいた。コルトン・グランクリュ シャルロット・デュメイの競り値はどんどん上がり、史上第2位の1樽27万ユーロで落札された──。これは僕が2012年に取材したブルゴーニュ「栄光の3日間」でのワンシーンです。

オークションの模様。窓の外から眺める群衆も印象的。

毎年11月の第3日曜を中心とするその前後の3日間、ブルゴーニュは1年で最も賑やかな祝祭の日々、「栄光の3日間」を迎えます。祭りのハイライトは「オテル・デュー(神の家)」と呼ばれる慈善治療院のワイン・オークション。これは治療院が所有するぶどう畑(元々は寄進されたもの)で実ったぶどうで造られたワインを競売にかけ、チャリティーによって施設の運営資金を捻出しようという試みです。その歴史は19世紀半ばに始まりました。ここで競り落とされたワインは「オスピス・ド・ボーヌ(ボーヌの施療院)」のラベルを貼って売られます。

「オスピス・ド・ボーヌ」のラベルが貼られたワイン。

 

「栄光の3日間」を祝うパレード。

ブルゴーニュワインの成り立ちを語るのにシトー会やベネディクト派の修道士たちの献身・貢献は外せません。質素と勤勉を旨とし、ぶどう畑での労働やワイン造りを祈りと同義のものとして暮らした彼らが、この地のワインを芸術と言われる域にまで磨き上げたのです。「栄光の三日間」の華やぎの裏に、そういった歴史的背景の存在を認めるとき、ワインはその味わいを一層深めます。

畑に残されたピノ・ノワールの二番果(収穫後に実る果実)。

 

ロマネ・コンティの畑にて。

ボルドーが貴族や豪商たちのワインであったのに対し、ブルゴーニュは農民や修道士たちのワインでした。このバックグラウンドの違いがアッサンブラージュの有無と関係しているのではないでしょうか?

 

前回のコラムで述べたように、ボルドーのアッサンブラージュには天候不順などによる不作のリスクを回避するための方策という側面がありました。一方で、天候に関するリスクがあるという点ではブルゴーニュも同様です。ボルドーよりもうんと緯度が高く、ぶどう栽培の北限に近いことから考えても、この地でのぶどう栽培が容易でないことは想像がつきます。しかし、この「容易でないこと」はワイン造りを信仰の一部と考える修道士たちにとってはかえって好都合だったのです。

剪定した枝を燃やす作業。

ブルゴーニュには「クリマ」「リューディ」という独特の言葉があります。いずれも「明確に限定された土地の区画」を指しますが、互いに重複したり内包したりすることがあって、理解が難しい言葉です。いずれにしても、これらの言葉が示す小さな区画こそがブルゴーニュの特徴であり、それらを長年に亘るトライ&エラーによって定めた者こそ、修道士たちだったのです。

 

クロ・ヴージョの畑。
その歴史は11世紀にシトー会の修道院が建てられたことに始まる

ピノ・ノワールやシャルドネは、実はぶどう自体に強い個性がある品種ではありません。それよりもむしろ栽培される風土の特徴を写す品種なのです。隣の区画とは少しだけ違う微差をきちんと表現してくれる品種、であれば、それを他の品種と混ぜて‥‥という発想は出てこないのではないでしょうか。

 

ドメーヌ・ジョセフ・ヴォワイヨのジョン・ピエール・シャルロ氏。

 

地元の造り手たちも顔を出す
ボーヌのレストラン、カーヴ・マドレーヌ。

シャトーという広い領地を複数のぶどう品種によって総合的に表わそうとするボルドーと、クリマやリューディという狭い土地のデリケートな個性を一つの品種によって表わそうとするブルゴーニュ。土地に対するアプローチの違いが、アッサンブラージュの有無を分けたというのが僕の私見です。

 

ピノ・ノワールは風土のキャラクターを忠実に写す品種。

ところで、ここまではアッサンブラージュという言葉を「複数品種によるブレンド」という意味で使ってきましたが、アッサンブラージュには、同一品種間であっても、別々の畑のワインを合わせる、収穫年の異なるワインを合わせる等々、様々な方法があります。いずれ、その辺りのことも詳しくお話しすることにします。

Photographs byTaisuke Yoshida

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは500軒を超える。