ぶどうの音色、ワインの調べ 第4話

2019 年 04 月 05 日ライター:Yasuyuki Ukita

第4話 “法王のワイン”のアッサンブラージュ

前回のコラムの最後に「アッサンブラージュには複数のぶどう品種のワインをブレンドするという方法以外に、同一品種間であっても、別々の畑のワインを合わせる、収穫年の異なるワインを合わせる等々、様々な方法がある」と述べました。が、もう少し複数品種間のブレンドに絞ってお話をしていきたいと思います。

最初にご紹介したボルドーの他にも世界には様々なアッサンブラージュ・ワインがあります。伝統的なものから見ていきましょう。フランスで言うと、ローヌの赤ワインが有名でしょうか。

大きな石ころがぶどう畑の表面を覆うコート・デュ・ローヌの典型的な風景。

 

コート・デュ・ローヌ南部の銘醸地、“法王のワイン”として名高いシャトーヌフ・デュ・パップではワイン法上13種類ものぶどうの使用が認められています。試しに列挙してみましょう。グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソー、クレレット、ヴァカレーズ、ブールブーラン、ルーサンヌ、クノワーズ、ミュスカルダン、ピクプール、ピカルデン、テレ・ノワール。いくつ知っていましたか? 僕は、名前と味わいが一致する品種は最初の4つだけです。

シャトーヌフ・デュ・パップの名高い造り手、シャトー・ラ・ネルトのワイン(グラスに入った白はほんの少量生産されるシャトーヌフ・デュ・パップの白)。

 

13種類全てのぶどうを使ってワインを造る生産者はほとんどいません。大抵は数種類をアッサンブラージュして造ります。よく出来たシャトーヌフ・デュ・パップは複雑精妙、力感とエレガンスを兼ね備えた瞑想的なワインです。長期熟成のポテンシャルも高いものがあります。
シャトーヌフ・デュ・パップを含め、より広い範囲で親しまれているのが「GSM」と呼ばれるブレンド。これはグルナッシュ(Greneche)、シラー(Syrah)、ムールヴェードル( Mourvèdre)の頭文字を取って名付けられた名称です。グルナッシュが親しみやすい果実味を、シラーが黒系果実のアロマやスパイスやスモーキーさを、ムールヴェードルが華やぎをといった具合に各品種が持ち味を発揮し、非常にバランスの良いワインになります。ローヌ品種と共に、GSMというスタイルも広く世界に広まっています。南仏のラングドック地方やカリフォルニア、南オーストラリアにはGSMの逸品が多く存在します。

 

ラングドック地方のぶどう畑。多様なテロワールを擁し、様々な品種が栽培されている。

収穫を間近に控えたシラーの果実。

 

一方、コート・デュ・ローヌ北部で使用が認められている黒品種はシラーのみですが、これに10%程度、白ぶどう品種(ヴィオニエ、マルサンヌ、ルーサンヌなど)を混ぜる伝統があります。例えば、コート・ロティではシラー80%以上の使用がワイン法で定められており、残りの最大20%はヴィオニエが用いられます。これは北部で栽培されるシラーが南部のそれと比べ、荒々しく硬いので、これに白ぶどうを混ぜて醸造することによって、ワインに柔らかさと豊かなアロマを与えようとする工夫です(但し、最近では醸造技術の向上に伴い、北部でもシラーから柔らかな口当たりのワインが造れるようになり、ヴィオニエを加えない、ないしは、比率を減らす方向にある)。

収穫したぶどうは大抵、品種ごとに醸造される。

南オーストラリア、スワン・バレーにあるワイナリー「ヘンチキ」の6代目、ジョアン・ヘンチキ氏。ここのヘンリーズ・セブンというワインはローヌ品種ブレンドの逸品として知られる。

 

 

黒ぶどう(赤ワイン用)と白ぶどうを混ぜると聞くと、「ロゼでも造るつもりなの?」と思ってしまいそうですが(実際に両者を混ぜてロゼワインを造る製法もあるが、一般的ではない)、実は、広く世界を見渡せば、黒ぶどうと白ぶどうを混ぜる製法は他にもあります。例えば、シャンパーニュの主要品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3つですね。シャルドネ以外の2つは黒ぶどうです。

Photographs by Tadashi Okochi, Taisuke Yoshida, Hiromichi Kataoka

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは500軒を超える。