ぶどうの音色、ワインの調べ 第26話

2021 年 02 月 03 日ライター:Yasuyuki Ukita

第25話 エミリア=ロマーニャの“逆転人生”❸

ロマーニャ地方を代表するワインがサンジョヴェーゼの赤とアルバーナの白だとすれば、エミリア地方を代表するワインは発泡性赤ワインのランブルスコだということになります。

イタリアの赤い泡と言えばランブルスコ。

ランブルスコはワインの呼称であると同時にブドウ品種の名前でもあります。イタリア人ワインジャーナリストで在来品種の権威、イアン・ダガタ氏によると、「ランブルスコと名の付くブドウはこの地方に17種類あり、それぞれに明確な個性の違いがある」とのこと(一説には、亜種を含め100以上の種類があるとも言われている)。例えば、ソルバーラ・ディ・ランブルスコ種はロゼのように色淡くフローラルな香り、ランブルスコ・グラスパロッサ種はフルボディで野性味がある、ランブルスコ・ディ・マエストリ種は色濃く肉感的な味わい‥‥といったふうに。

品種によって違うのは味わいだけでなく、栽培に適した環境もまた然りです。日本で最もよく知られたランブルスコ「コンチェルト」の生産者である〈メディチ・エルメーテ〉が選んだのは、色調が濃く、風味のバランスが良いランブルスコ・サラミーノでした。「当社のブドウ畑があるのは川沿いの平坦な粘土質土壌の土地です。この環境に最適な品種がサラミーノでした」と教えてくれたのは、5代目でブランド・アンバサダーのアレッサンドロ・メディチ氏です。

川霧の立つ低地にエステートは広がる。

名門メディチ家の流れを汲むファミリーが興したワイナリー〈メディチ・エルメーテ〉ですが、頭角を現わしたのは今世紀に入ってからのことでした。

3代揃ったメディチ家。
後列真ん中がアレッサンドロさん、その右が当主のアルベルトさん。

アレッサンドロさんの父親で当主のアルベルト・メディチ氏が、それ以前は栽培農家から買い集めていたブドウを自社畑で栽培するようにし、クオリティを高める努力をした結果、品質が向上、2009年に「コンチェルト2008」がワイン誌「ガンベロロッソ」で最高評価であるトレ・ビッキエーリを受けるという快挙を成し遂げたのです。それまで、ランブルスコは「質よりも量」の地位に甘んじていましたが、この一件で、クオリティワインの仲間入りを果たし、ワイナリーのみならず産地の評価を一変させたのです。

右がランブルスコの評価を変えた「コンチェルト」。

紅葉の色合いは品種によって異なる。サラミーノは黄色っぽく色づく。

「コンチェルト2018」を試飲してみましょう。濃い桑の実の色合い。控え目な泡立ち。ラズベリージャムの香りを中心に、少し清涼感のあるトーンが混じります。口に含むと、人懐っこい甘みがあり、適度な酸がバランスを取っています。飲むと、思わず笑みがこぼれるような、陽性を感じさせるワインです。

この地方のワイナリーはバルサミコ酢の製造を兼業することが多い。
ここはバルサミコ酢を熟成させる「アチェタイア」という部屋。

パルマの生ハムとランブルスコは好相性。

一転して、丘陵地の比較的標高の高いところに畑を持つのが〈ファットリア・モレット〉です。案内してくれたのは当主の息子で4代目のアレッシオ・アルタリーバ氏です。「カンティーナ(ワイナリー)周辺の標高は200mほどあります。こういう標高の高い土地での栽培に適するのがランブルスコ・グラスパロッサです」

グラスパロッサの畑に立つアレッシオさん。この品種は紅葉すると赤く色づく。

丘陵地に広がるブドウ畑。

同社ではグラスパロッサによるランブルスコを畑違いで3銘柄造っています。地勢や土壌の違いがどういう風にワインの味わいに出るかを同じ品種によって表現してみようという試みです。

「タッソ」は標高180mにある3つの畑のブドウを混醸。樹齢は15〜20年。ラズベリー、野イチゴの香りにハーブの香りが交じります。
「モノヴィティーニョ」は標高250mの斜面にある樹齢48年の畑のブドウから造られます。スミレと赤い果実の香りに血を思わせる鉄っぽいトーンが交じります。
「カノーヴァ」は標高150mの、砂と粘土と石灰の混じる土地に広がる単一畑のブドウから。樹齢は3つの中で最も古く、52年。砂地の土壌で、ブドウの根が深く伸びるとのこと。清涼感のあるハーブの香り。口の中ではブルーベリーの親しみやすい甘みと熟れたカシスのややラスティックな風味があります。

左から、「モノヴィティーニョ」、「カノーヴァ」、「タッソ」。

僕にはランブルスコと言えば思い出す「記憶のマリアージュ」があります。ポー川の河口地域の名物にうなぎのオイル漬けがあります。これは、スライスしたパンにうなぎとラルド(豚の脂身)を乗せて食べるのですが、それに合わせるワインが常温のランブルスコなのです。常温の、というところが重要なのだと、地元の老人が自信をたっぷりに教えてくれたことが忘れられません。

(つづく)

Photographs by Taisuke Yoshida

浮田泰幸(うきたやすゆき)
ワイン・ジャーナリスト、ライター。内外の産地・ワイナリー・生産者を取材し、雑誌やウェブサイトに記事を寄稿している。これまで訪問したワイナリーは600軒を超える。


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